揺れない瞳

その時、微かな音がして振り返ると、キッチンの入口に立つ結乃が目に入った。
心細げに両手で自分の体を包み込み、俯いたままで立つその姿は、俺の心を掴むには十分過ぎる力を持っていた。

結乃の華奢な体を包んでいるノースリーブスのウェディングドレスから露わになっている腕の細さや、はっきりと出ている鎖骨の線は、結乃の儚さを教えてくれるようだ。その儚さを含めて、この先もずっと、結乃を大切にしたいと感じる。
俯きながらも、赤くなっている頬が見え、このままぎゅっと抱きしめたくなる。
出会って以来、何度かこの腕に抱きしめてはキスを落としていたけれど、俺の中のどんな感情が、そうさせるのかはわからなかった。
芽依ちゃんに似ているという理由で惹かれて、自分の複雑な感情を拭い去るようにこの手で抱きしめた。

結乃が戸惑っていることにも、男に抱きしめられることにも慣れていないことに気づいていながら、自分の身勝手な行動を止めることはできなかった。

そして、そんな身勝手な行動の理由に気づいていないふりをしていたのかもしれない。

「結乃、おいで……いや、いい。俺が結乃の側に行くから」

結乃の綺麗な姿に惹きつけられるように、ゆっくりと近づいていく。
その短い時間、結乃は相変わらず俯いたまま、肩を震わせていた。

「綺麗だな。ドレスも……結乃も」

自分の体を固く抱きしめている結乃の腕を、そっとひきはがした。
最初は抵抗していた体も、俺の体温が染みるにつれてほぐれていくようだった。

結乃の胸元に輝いてる沢山のビーズや、ドレスの白い布が作る豊かな波の間を漂っているリボン、スパンコール。
どれも綺麗で惹きつけられるけれど、唇をかみしめ、照れている結乃の表情の美しさには敵わない。

肩の少し下あたりにおろされただけのまっすぐな髪の毛を手ですくい、そっと口づけた。

「結乃……好きだよ。芽依ちゃんの存在を抜きにしても、好きだから安心して。
今までちゃんと言わなくて、ごめん」