揺れない瞳

コーヒーメーカーが、こぽこぽと音をたてている。
その豊かな香りに、意識が現実へと呼び戻される。

芽依ちゃんから厳しく言われた言葉を思い出して、俺の中に巣食っている重苦しい感情から抜け出せずにいる。

芽依ちゃんとの不安定な関係に新たな道筋を求めていた俺は、芽依ちゃんへの苦しい思いを伝えずにはいられなかった。

『芽依ちゃんがどんな人生を歩もうと、俺が求める幸せを、自分の努力で手に入れてもいいのかな』

芽依ちゃんにそう尋ねたのは、数日前の昼間だった。
たまたま大学の講義が休講となり、時間ができた俺は、夏芽へのクリスマスプレゼントを届けに芽依ちゃんの部屋を訪ねた。

プレゼントを渡して、夏芽と少し遊んだら帰ろうと考えていたけれど、芽依ちゃんの口から出る結乃の名前が呼び水となって、思いがけず、自分の気持ちを吐露してしまった。

『俺は、結乃が好きで、どうしても欲しいんだ』

まるで中学生のわがままのような俺の言葉は、芽依ちゃんの表情を消すほどに強烈だったらしい。

『俺は、結乃に側にいて欲しい。好きだから、諦めるつもりはないんだ』

何事にも、芽依ちゃんが心配しないように気を配りながら生きてきた俺だけど、どうしても、結乃だけは手離せない。
芽依ちゃんが反対したとしても、自分の気持ちを変えるつもりはない。