肩を落として寝室に向かう、結乃の背中を見ながら、俺の心は今までになく沸き立っている。
今の結乃にしてみれば、ウェディングドレスなんて、作るものであって、身に纏うものではないに違いない。

『どうしても、着なくちゃだめ?』

無言で見つめる瞳から伝わる結乃の言葉を軽く流して、強引に押し切った。

無理矢理ウェディングドレスを着せられる事への戸惑いと、俺が突然告げた気持ちをどこまで信じ切っていいのか悩んでいる様子が露わに見えて、嬉しくなる。

結乃には申し訳ないけれど、ようやく自分の気持ちを解放する事ができて、今の俺はまっすぐに結乃を求める事しかできなくなっている。

結乃と出会ってすぐの頃、偶然聞いた

『結乃ちゃんって、昔の私に似ているの』

という芽依ちゃんの何気ない言葉に、一瞬で不安定になった俺の心。
幼い頃から持ち続けている芽依ちゃんへの遠慮、それは俺という人間をを形成する大きな部分を占めている。
両親の離婚によって、大切な人と離れ離れで暮らす運命を受け止めて、一生懸命生きていた芽依ちゃん。
お兄さんの巧さんとの別れの時には、心が壊れてしまうんじゃないかと、周囲が気をもむほどに泣き叫んでいたらしい。

そして、巧さんも、大切な妹と離れる事を拒み、抵抗し続けていたと聞く。

それでも、まだ学生だった巧さんにはどうする事もできず、時折呼び寄せては芽依ちゃんを抱きしめて、愛情を注いでいた。

そんな中で、俺が生まれたとしても、芽依ちゃんと巧さんとの間にある強い絆に割って入るなんてできないのは当然の事だった。

巧さんも、芽依ちゃんも、半分だけ血が繋がった俺を、ちゃんと弟として受け入れてくれたし、何のこだわりもなく接してくれた。