「結乃……」

意識の奥に感じたのは、心配げな央雅くの声だった。

「あ……ごめん」

そっと、央雅くんの手が伸びて、私の頬を流れる涙を拭ってくれた。
私の涙を見て、目の前の芽依さんと夏基さんは驚いている。

「大丈夫?ごめんね、結乃ちゃんにはつらい事を言っちゃったのかな。ごめんね」

慌てて謝る芽依さんは、心底申し訳なさそうに、顔を歪めている。
エプロンのポケットから、ハンカチを取り出すと、私に差し出してくれた。
央雅くんが、そのハンカチを受け取って、優しく私の目に当てると

「泣いても、いいから。……俺がいるから」

言い聞かせるように、呟いた。

「たとえ、結乃が抱える全てが苦しいものだとしても、俺は、結乃の側にいるから。大丈夫……泣きたいだけ、泣いていい」

「……離婚は……両親の離婚は、私のせいだと……」

両親が離婚する事を止められなかったのは、自分の力不足だと思っていたけれど。
そんな事はないと、自分を楽にしても、いいのかな……。

「結乃ちゃんが、ご両親の離婚の原因なんかじゃじゃないよ。
離婚する一番の原因は、お互いへの愛情がなくなったって事なんだから。

逆に、結乃ちゃんが小さな頃から寂しい思いをさせられた原因は、ご両親の離婚。

ご両親を責める事はあっても、自分を責める事はしちゃだめ。

お父さんに会って、甘えるだけ甘えて、文句も言いたいだけ、言っちゃえ」

「芽依さん……」

「結乃ちゃんに、悪いとこなんて、何もないから。
それだけは、ちゃんと、覚えていてね」

芽依さん自身、小さな頃から寂しさから逃れられずに生きてきたから、私を気遣う言葉には重みと強さがある。
時折つらそうな顔をしながら、私が持つ不安な気持ちを封じ込めようと言ってくれた優しさを、私は確かに受け止めた。