揺れない瞳

私と央雅くんは、突然話し始めた芽依さんの真意がわからなくて、手にした箸を止め、じっと、芽依さんが続ける話に耳を傾けた。

ただ一人、夏基さんは、芽依さんの様子を心配げに見ながらも、私と央雅くんを安心させるような笑顔を見せてくれた。

「私の両親の、お互いへの愛情が冷めてきたとはいっても、情はあるから、簡単に離婚はできなかったみたい。だから、もう一人子供を作って、やり直そうって決めて、母は私を産んだのよ。『子はかすがい』っていうでしょ?」

ゆっくりと話す芽依さんから意識をそらせない。
何か、とても大切な事を話してくれているように思える。

「でもね、結局、私は『かすがい』にはなれなかったの。
家族四人で何年かは暮らしたけど、私が小学生の頃には離婚した。

私の存在には、両親の絆を結ぶほどの力はないんだって、実感して悲しかった」

「芽依ちゃんは、高橋のお父さんと、巧さんと一緒に暮らしたかった?」

央雅くんが、小さな声で尋ねると、芽依さんは複雑な笑顔を作った。

「そうね、兄さんとは離れたくなかった。両親が仕事で忙しかったから、それまで兄さんとお手伝いさんに育てられていたようなものだったから。
引き離された時には、悲しかったな……」

「そっか……」

力なく呟く央雅くんは、どこか寂しそうに見える。大切な芽依さんが、そんな気持ちを抱えていたと聞いて、何も思わないわけはない。
きっと、央雅くん自身、小さな頃の色々な事を思い出しているに違いない。

「だから、小学生の頃から、私が生まれた意味ってなんだろうって考えてたの。
両親を離婚させない為に、『かすがい』として生まれてきたのに、結局役に立たなかったから……。生きていて、いいのかって、ずっと悩んでた。
そうね、きっと、夏芽が生まれるまで、ずっと悩んでた」