揺れない瞳

「あの……芽依さんは、私の父に会った事があるんですか?」

「ううん、ないわよ」

あっさりと言い切る芽依さんに、私は思わず首をかしげてしまった。
私を励ますためだけにしては、あまりにも自信がある芽依さんの言葉だったから、正直どう受け止めていいのかわからない。父が私を愛してくれていると、単純に信じてしまいそうになるけれど、これまでの私の人生を振り返ると、そんなのあるわけないって否定したくなる。

「私の両親も、離婚しているから、わかるのよ」

私の逡巡する気持ちを見透かしたかのように、芽依さんは言葉を続けた。

「私の存在だけじゃ、両親の離婚をとめる事はできなかったの。
だからといって、私が両親から嫌われてるわけではないと、まあ、ちゃんと理解できたのは最近だけどね」

何かを悟っているような、穏やかな芽依さんの表情に、自然と見入ってしまう。

「芽依ちゃん……」

不意に、央雅くんの呟きが聞こえた。
隣を見ると、央雅くんがつらそうに口元を歪めながら、悲しい光に満ちた瞳で、芽依さんを見ていた。
今まで何度か、央雅くんが芽依さんに向ける愛情深い表情は見たことがあるけれど、こんなにつらそうな表情を見るのは初めてだ。

その表情は、私の心を痛めるには十分で、思わず、テーブルの上の、央雅くんの手を握ってしまった。そして、央雅くんが震えている事に気づいた。

ぎゅっと包み込むように、強く握ると、次第に央雅くんの震えも小さくなった。

私に視線を移した央雅くんからは、張りつめた様子が徐々に消えていくようで、ホッとする。

「私の両親はね、子供は兄一人でいいって思っていたのよ。父も母も、それぞれ仕事を持っていたから、二人目の子供は考えられなかったの。
おまけに、結婚した頃に比べて、二人の間の愛情は薄れていて、離婚を考えていたから……兄一人でいいって思っていたらしいの」

抑えられた感情から吐露される芽依さんの言葉は、私が思ってもいなかった、驚きの内容だった。