揺れない瞳

「おかえりなさい」

芽依さんが、嬉しそうに夏基さんを出迎えると、芽依さんに抱かれていた夏芽ちゃんも大きな声を出して喜んでいる。
そんな夏芽ちゃんに、大きな笑顔を向ける夏基さんは、とても幸せそうに見える。

「夏芽、今日もいい子にしてたか?」

ほんの少し高くなった夏基さんの声は、優しい父親そのものだ。
しばらく夏芽ちゃんをあやしていた夏基さんは、私と央雅くんに気付いた途端、はっと顔色を変えた。
……どうして?

「結乃ちゃん、ごめん、おやじが余計な事を言ったんだよな。さっき会ったんだよ。あの世話好きの言う事なんて気にしなくていいんだよ」

慌てた様子に驚いて、何をどう、答えていいのかわからない。いつも落ち着いている夏基さんのイメージからはかけ離れているその表情からは、ただ事ではないものを感じるけれど……。夏基さんの言おうとしている事がわからない。

「あの、何を……」

「おやじ、結乃ちゃんに無理言ったんだろ?お父さんに会えって、無理矢理すすめたんだよな。人の事に首突っ込むのは仕事だけにしろって怒っておいたから。……ごめんな」

「あ……。いえ、大丈夫です」

「おやじ、結乃ちゃんの事、本当に可愛がってるから、結乃ちゃんに幸せになってもらいたい気持ちはあたりまえなんだけど、それにしても強引だから」

大きくため息をついた夏基さんは、しばらく私をじっと見つめていた。
何かを思い出しているのか、微かに瞳は揺れている。

「まあ、結乃ちゃんのお父さんの気持ち……俺も今ならわかるんだけどな」

視線を夏芽ちゃんに向けて、小さく呟いた。ばたばたさせている夏芽ちゃんの手を軽く握ると、夏芽ちゃんの動きに合わせて手をぶんぶんと動かしている。

「俺だって……父親だからな……」

寂しげな口調が、本当に切ない。

「でも、結乃ちゃんの好きにしていいと思うから……無理にお父さんと会わなくてもいいから」

「あ……はい」