揺れない瞳



最終審査に残った事がきっかけとなり、いくつかの驚きを私に与えたこのウェディングドレス。
絶対に最終審査に残りたいだなんて強い想いを込めて作ったわけじゃないのに、このウェディングドレスから導かれる展開は、私が予想もしなかった思いがけないものばかり。

『sweet sweet』のショーへの出品を依頼されるなんて、願う事すらしてなかった。人気のあるショーだけに、チケットを手に入れる事も難しくて、見に行った事もない。
ましてや自分がモデルとしてウェディングドレスを着る事を依頼される嘘みたいな話、まさかまさかで。

今目の前にいる川原さんとの会話だって、ウェディングドレスが話題の中心だ。

「来週結婚式を挙げるのなら、花嫁さんの衣装はとっくに決まってるんじゃないんですか?」

「まあ、そうなんだけど。決めてるドレスよりも、不破さんが作ったウェディングドレスの方がいいんだってさ」

眉を寄せて、心なしか拗ねているような声は、淡々と話をすすめていた川原さんから読み取れる、初めての感情の動き。
細めた目の奥からは、諦めに似た光も見える。

婚約者の彼女に頼まれたせいで、私のドレスを借りたいって言ってるけれど、川原さん自身は納得していないんじゃないかな。