揺れない瞳



駅前にあるお目当てのお店には、深夜だというのに行列ができていた。
テレビで紹介された事もある、おいしいと有名なラーメン屋さんは、明るい照明に照らされていてそこだけが温かい空間に見えた。

「席に通されるまで少しかかりそうだけど大丈夫?」

30人ほどの列の最後尾に並んで立った時、私の顔を覗き込みながら央雅くんが聞いてくれた。
寒さと空腹を気遣ってくれてるのかな。
確かに寒いしお腹もすいてるけど。

「大丈夫。ここに来たらいつも並んでるから慣れてるし、おいしいラーメン食べたいから平気。…央雅くんは大丈夫?」

「俺も大丈夫。……この店には、よく来るの?」

「しょっちゅう来るわけじゃないんだけど。一人暮らしだから夕飯作るのが面倒な時に来たり、あ、加絵ちゃんもお気に入りだから二人で来たりするかな」

「ふーん。俺の家の近くにもおいしい店があるから、今度一緒に行くか?」

「え?うん、行く」

思わず大きな声で答えてしまった。
央雅くんからの誘いってだけでも気持ちは盛り上がって熱くなっていくのに。

央雅くんの家の近くに誘ってもらえれた事が嬉しくてたまらない。

今こうして央雅くんと一緒にいる理由もはっきりとわからないし、央雅くんの事をよくわかっていない私の不安はとても大きい。

だから、今みたいに、央雅くんのテリトリーに近づく事を許されたり、ほんの少しでも央雅くんの懐に近づけたって感じる度に、どきどき、そして切ない、全く慣れる事ができない感情の揺れが私を包む。

そんな、小さな頃に手放したかもしれない当たり前の感情の揺れは、本来の、年相応の私を呼び戻してくれるようで心地いい。

「パスタがおいしい店なんだけど。…来週あたり、バイトが休みの日にでも行こう」

「うん。…来週のバイトのシフトはまだ決まってないから、加賀さんに聞いておくね」

「あ、それは俺が加賀さんに聞いておくよ。いつも俺のバイトのない日に合わせて調整してもらってるし」