「確か、結乃の家の近くにラーメン屋あったな。食べに行くか?」
央雅くんは、今まで見せていた冷めた表情を隠すように軽く笑うと、私の手を更に強く握り直してくれた。
ほっとした私は、その手を握り返しながら、出会ってからほんの短い間に知りつつあった央雅くんの姿が、決して彼の全てじゃないんだと思えてきた。
拒む事のできない勢いと押しの強さで私の生活に入ってきては優しさを落としてくれるけれど、それは、央雅くんが意識してそうしているんじゃないかと感じた。
もしかしたら、無理しているのかな……。
私に優しく接する態度や大切にしてくれる気持ちは嘘じゃないと思えるけれど、きっとそれだけじゃない。
何か苦しみを抱えていて、その苦しみによって生まれてくる私への優しさだと思える。
そう思うと、とても切ない。
けれど、今日お店に迎えに来てくれた時に機嫌が悪かったのは、私が颯くんとの会話を楽しんでいた事がきっかけだとすれば、それは私を特別に思う気持ちがあるからなのかな……。
こうして手を繋いでくれて、わざわざ時間を割いて家まで送ってくれて。
今の二人の状況と、央雅くんが見せてくれた機嫌の悪さ。
たとえ私への感情が、何か特別な……苦しい理由に基づくものだとしても、ほんの少しは、私を好きでいてくれているのかな。
颯くんを睨んでしまうくらいに私を好きでいてくれているのかな。
複雑にめぐる想いを自分で消化できないままだけど、
「うん。あのお店、しょうゆラーメンがおいしいよ」
央雅くんから誘われた事が嬉しくて、想いはその事のみに反応してしまう。
……央雅くんが見せていた悲しく苦しげな表情は、今は忘れよう。
二人で、過ごせる時間がほんの少し長くなった嬉しさだけを考えよう。
「きっと、お店の前には行列ができてると思うんだけどな……」
「それなら二人でのんびり待ってたらいいし」
「うん、そうだね」
私達は、いつもと違う軽い足取りで、駅までの道を急いだ。

