央雅くんの感情全ては、今どこに向いているの?
「俺から離れていくならどうする事もできない……ただ見てるしかないんだ」
ふっと小さくなった央雅君の声は、まるで自分自身に言い聞かせているようだ。
苦しそうな瞳には、何も映し出されていない。ただ前を向いているだけで何かを見ようという意思も感じられない。
それでも、私の手を握っている央雅君の手には、離そうとする気配は全くない。唯一繋がってる私と央雅くんの温かさに縋るように、ぎゅっと固く結ばれている。
どんなに空虚な目を向けられても、その温かさを感じてホッとする気持ちは否定できない。
駅に向かって歩く横顔には、央雅くんの切なげな感情がくっきりと浮かんでいて、涙を流しているわけではないのに、まるで泣いてるように見える。
ずっと抱えてきたような、苦しみとあきらめすら隠せていない。
もしかすると、私と央雅くんの手の繋がりに縋っているのは。
私よりも央雅くんの方じゃないかと感じてしまう。
今、央雅くんがどんな感情を溢れさせているのかはわからないけれど、きっと何かを悩んでいるのは見ていてわかる。
たとえ私が側にいても、悩みを分け合えるなんてできるとは思えない。
けれど、繋いだ手の温かさがほんの少しでも、央雅くんの心の葛藤を鎮める手助けができるなら、嬉しい。
誰かに決められるままに、自分の感情を隠しながら生きている、ちっぽけな私だけど。央雅くんが縋ってくれるのなら、嬉しい。
「央雅くん、お腹すかない?」
「ん?あ、晩飯まだか?…でももう遅いだろ」
いつも自分の気持ちを出せない私には、かなり思い切った誘い。
央雅くんを自分から誘うなんて、初めてかもしれない。
言ってすぐ、私の心臓の音は大きくなった。
でも今日は、このまま帰るのが寂しくてたまらなかった。

