普段より気持ちも軽く、すんなりと颯くんと話していたほんの数分間の私を、央雅くんは見ていたらしい。
単純に機嫌が良くないなんてものじゃなく、突き放そうとする冷たさすら感じるその声は初めて知る央雅くんの一面。
それでも、戸惑う私に向ける冷めた表情とは裏腹に、私の手を握りしめる央雅くんの手は熱い。熱いし、力強くて、私を見捨てようとしてるわけじゃないと、少し安心する。
「私は……別に颯くんに送ってもらいたいわけじゃないよ……」
小さな声でも、央雅くんに視線を向けながらちゃんと伝えようとした私だけど。
冷めたままの央雅くんの表情に、言葉も途切れそうになる。
これまでに私に見せてくれていた温かい目はどこにも見えない。
「俺にはどうしようもないから」
「……央雅くん?」
「結乃が俺から離れていくなら…それでもいいさ。そんなの初めてじゃないから、慣れてる」
「あの……央雅くん?」
私が央雅くんから離れていくって、どうしてそんな言葉を聞かされるのかわからない。私から離れるなんて考えたことないのに。
あまりにも思いがけない言葉は私から思考能力も低下させていく。
私達の歩調はゆっくりと変わらないまま、ただ央雅くんの言葉が私を通りすぎる。
央雅くんの視線も私に向けられているのに、その言葉は何故か私の中にしっくりと入ってこない。
今の言葉は私に言ったんじゃなくて、思わず央雅くんが呟いただけの言葉なのかな……。
私を見つめる央雅くんの視線を見つめ返すと、何度か見た事のある重く暗い色が揺れているのに気付いてしまった。
ああ、まただ……。
何かを諦めようとして、それでいて何かを求めてるような痛くてたまらない央雅くんが、目の前にいた。

