二人でゆっくりと駅までの道を歩いている時間は、まるで恋人同士のようだと錯覚しそうになる。
これまでの私なら考えもしなかった想いが心を乱す。
央雅くんが私を大切に思ってくれているのはよくわかるし、優しくしようと心を砕いてくれているのも感じる。
バイトの帰り、家までわざわざ送ってくれることすら当たり前になっているけれど、そんな事を続けてくれる央雅くんの真意はよくわからない。
こういう日常を始める前に、理由をちゃんと聞いておけば良かったけれど、出会ってすぐには戸惑う気持ちばかりが私を占めていて、聞く事もできないまま今に至っている。
けれど、今の私にはほんの少し落ち着きも生まれていて、央雅くんの気持ちに触れる事もできそうな気がする。
隣を歩く央雅くんの顔をそっと見上げると、整った横顔が目に入る。
すっとした鼻筋がまるで彫刻のようで、こんなに綺麗な顔だったんだと改めて思う。
どこか芽依さんに似ている目元ははっきりとしていて、どう見ても女の子からの視線を集めそうだ。
そんな央雅くんと手を繋いで歩く今が信じられないし大切だと思う。
できる事なら、ずっと一緒にいたいと願ってしまう。
でも、央雅くんがどうして私の傍にいてくれるのかわからないまま一緒にいる事がつらくなっているのも事実で、右往左往させられる自分の気持ちが手に負えなくなってきている。
「……何?」
じっと横顔を見つめる私に、央雅くんは軽く笑って視線を向けてくれた。
「あ……あの。……私……」
咄嗟に何も言えなくなる私に、央雅くんはほんの一瞬苦しそうな顔をした。
「あいつに送ってもらった方が良かった?」
「え?あいつって…?」
「店にいた……さっき結乃が仲良く話してた男」
どこか苦々しそうな声。央雅くんがこんなに低くて重い声を出すの、初めて聞いた。

