「遠慮しなくてもいいのに。俺もたまに仕入手伝ってたりするし。学校の課題で色々必要だろ?」
「うん…そうだけど、サービスなんていいよ。
今でも十分手頃な値段で売ってくれてるし、これから行きにくくなると困るから」
「そっか…。ま、そうだよな。でも、姉貴に結乃ちゃんの事は言っておくよ。
掘り出し物とか見せてくれるんじゃないかな」
優しくそう言ってくれる颯くんに、ホッとしながら頷いた。
私の通う大学の生徒たちも多く利用するあのお店の店長さんが颯くんのお姉さんだって聞いて驚きだけど、身近にそんな知り合いができて嬉しくなる。
バイト先の同僚だけでしかなかった颯くんだけど、友達という枠に入れさせてもらってもいいかと思える人が増えたように感じる。
思いもかけない感情が生まれた。
懐に入ってくる他人からの優しさや思いやりが不安を煽るせいか、どこか距離をとりながら人づきあいをしてきたけれど。
知らず知らず、そんな過去を切なく寂しく感じるようになっている。
昔なら拒んでいた他人からの笑顔も受け入れられるようになっている。
そして、そんな自分が嫌じゃない。
颯くんとの付き合いだって、これまでは距離をとりながら、必要最低限の挨拶と仕事上の会話しかしなかったけれど、最近では少しずつその距離も縮まって、その優しさをありがたく思えるようになっている自分が、妙に嬉しい。
「ありがとう、颯くん」
私の口から素直に出た言葉に、嬉しそうな顔をして見返してくれる颯くんは、
「コンクールで作ったドレス、姉貴の店の生地だろ?
姉貴も喜んでた。近いうちに、顔出してやってよ」
「うん。そうする」
颯くんが見せてくれたほっとするような笑顔は、いつも加絵ちゃんから向けられる笑顔によく似ている。そのせいか、颯くんとの二人の間に漂う空気に居心地の良さを感じた。
普段は焦るばかりの自分の頑なな心が、少し柔らかいものになったように感じて、そして、男の人の知り合いが増えて嬉しいと思える自分は、これまでよりも少し成長できたような気がした。

