「見たよ」
「え…何?」
もうすぐ降りる駅に着く頃、不意に央雅くんが呟いた。
たわいもない話を続けながら、浮き立つ気持ちで隣に立っていた私は、最初何を言ってるのかわからなかった。
優しい笑顔で見つめられて、それだけに意識は持っていかれる。
「綺麗なドレスだったよ。よくわからないけど、綺麗だった。
最終に残るだけでもすごいことだって芽依ちゃんも夏基さんも興奮してた」
「あ…ドレス…。見てくれたんだね」
「昨日、芽依ちゃん達に連れて行かれて見てきたよ。
今まで洋服の事とか興味なくて、ああいうの知らなかったから新鮮だった」
「そう…なんだか、恥ずかしいな…」
電車の音に紛れながら、私の声も小さくて聞き取りにくいのか、顔を寄せてくる央雅くんは嬉しそうな視線を向けてくれる。
「ひまわりのモチーフだけでもあんなに綺麗に作ってびっくりしてたけど、そんなレベルじゃなかったんだな」
「そんなこと…たまたま最終に残ってしまって…運が良かっただけで…」
私を誉めてくれる央雅くんの言葉は温かくて嬉しいけれど、私の実力は私が一番知っているし、あのドレスだって修正したい箇所だらけで半端な作品だし…。
照れて焦って、色々考えてる私の顔はきっと赤くなってるに違いない。
私自身に対してもそうだけど、私の作品が注目されるのも初めてで、どんな顔をしていいのかわからない。
そんな私を見てくすっと笑ってる央雅くんは
「偉いな…俺も嬉しいよ。
投票で一位、とれるといいな」
そう言って、私の肩を抱き寄せてくれた。
少し混み合う電車の中で、私の心臓の音が周りの人に聞こえてしまうんじゃないかと俯くくらい、どきどきが止まらなかった。

