私を引き取ろうとしなかった過去を振り返って後悔しているのがよくわかるほどに真剣な父の様子は想像もしていなかったもので、意外すぎる現実が受け入れられなかった。
今更…って拗ねるほど子供ではなかったけれど、やっぱり幼い頃に私の手を取ってくれなかった父を信じ切ることなんてできない私は、その申し出を断った。
ようやく見えかけていた自分が主人公の人生なのに、それを捨ててまで父と暮らしたいとは思えなかった。
小さな頃の思い出は温かくていいものばかりだから、迷いがなかったとも言えないけれど。
父の必死に私を求める態度に気持ちが揺れないわけでもなかったけれど。
それでも、まっさらな気持ちで父を受け入れる余裕は私にはなかったから、一緒に暮らす事は頑なに断った。
そんな私の態度が、父を傷つけているのはよくわかっていたけれど、その何倍も傷ついていた私の心は簡単には開かない。
私の固い気持ちを察して落ち込んだ父だけど。
どうしても私を自分の手元に置いておきたいと強く言い張って出したのが。
父が所有するマンションに住んで、大学に進学して欲しいっていうこと。
仕事で成功していたらしい父には私にマンションを与えて大学の学費を出す事くらい簡単。
私がやりたいことがあればそのために進学すればいいし、もしなければそれを探す為に予備校に通って浪人しても構わないと言ってくれた。
『一度壊してしまった結乃の人生を、やり直す手伝いをしたい』
そう言った父の言葉が大きく私の気持ちを揺らした。
思いがけずの父の登場によって改めて考え直すことになった私の未来。
私の人生をやり直す…。
悲しみと寂しさと、選択する権利のなかった私の人生をやり直す事なんて…できるんだろうか。
やり直せるなら、やり直したい。考えないようにしていた私の隠していた本音を表に出してしまった途端に溢れる想い。
それが、決め手だった。
心を開く事ができない相手である父なのに、その父の力を借りて人生をやり直すほどに、それを求めていた自分に驚いたのは誰でもない私だった…。

