家に帰ってから、あたしはずっと考えてた。ベッドに寝転がって、意味もなく天井の小さなシミを数えながら。


 ――本人じゃなきゃ、あんな風に素直に言えるんだけどな。
 とてもじゃないけど、慎吾相手にああはいかないな。うん。


 そもそも、今さら向き合って話をする関係でもないんだ。あたしたちは。
 二人並んで、いつも同じ方向を――前を見て歩いてきたんだから。



 ふと、窓ガラスを小突くようなささやかな音。気のせいかとも思ったけど、続いてもう一回。

 ――なんだ? 

 あたしはカーディガンを羽織って、恐る恐るベランダに近寄る。
 カーテンを開けて外をのぞいても、当然黒一色の世界。

 仕方がないので寒空の下に出てみると、どこからか呼び声が聞こえてくる。
 それは聞き慣れに慣れ親しんだ、慎吾の声。