森本、本人ではなく―――彼女の成績にしか興味がない、と言う話を聞かされて何て答えていいのか分からなかった。
彼女の母親は学校では有名な教育ママで、同時にモンスターペアレントでもある。
あまりいい噂を聞かないが、噂だけを鵜呑みにできないのも確かだ。
久米より先に、森本の保護者に会った方がいいかもな……
車を運転して僕は考えていた。
助手席に座った森本は、走り出すとすぐにきょろきょろと視線を車内に向けた。
「…あたし、男の人の車ってはじめてです…」そわそわと視線を動かし、落ち着きないように手をもじもじさせている。
「運転怖かったら言って?」
「はい!…い、いえ!大丈夫です!先生は上手です…だと思います。それに想像したより大きな車でびっくりしました」
緊張したように言う森本の反応は初々しくて可愛かった。
雅なんて最初に乗せたときからずっと無言だったし。
「…あ、スヌーピー…可愛い」
森本がルームミラーを見ながらちょっと明るい声を出した。
「殺風景だからって、つけたんだ」
僕が苦笑いを漏らすと、森本がきゅっと唇を結んで
「……彼女さんが、ですか?」と聞いてきた。さっきまでの楽しそうな表情から一転、森本の顔には翳りが見えた。
何だろう…僕まずいこと言ったかな?
「…先生の彼女さんが羨ましいな」
「そ…そうかな…」曖昧に答えたときに、
~♪
森本のケータイが鳴った。
「す、すみません」森本は鞄の中から慌ててケータイを取り出して、ケータイのディスプレイを見ると、一瞬目を開いて慌てて着信を拒否した。
「出なくていいの?」
何となく聞くと、またも着信が鳴った。
森本はまた着信を拒否するかのように電源ボタンを押すと、そのまま長押ししてとうとう電源ごと切ってしまった。
「何かあったの?」不思議に思って森本の方をちらりと見ると、
彼女は今にも泣き出しそうに表情を歪めた。



