□Chairs.24



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「モカ!モカっ!」


降りしきる雨の中、雨音に混ざって結ちゃんの叫び声が聞こえる。僕はまさか自分が轢いてしまったのではないか、と青ざめたが、確かに何かを轢いた感触は無かった。


一つ呼吸をするといくらか冷静になれた。僕は結ちゃんの元に駆け込むと、結ちゃんの飼い犬、ポメラニアンのモカは結ちゃんの腕の中で多少はぐったりしていたものの、しっかりと目を開けて「くぅん」と小さな鳴き声をあげていた。


「怪我は?」僕は口早に聞くと、結ちゃんはゆるゆると首を横に振った。


「でも…体がすごく冷たい。どうしよう…先生…」結ちゃんは弱々しく呟き僕を見上げてきて、僕は着ていたスーツの上着をモカに被せた。雨に打たれて冷たくなっていたが無いよりましだろう。そしてモカの体に触れると、確かに冷たかったがそれは長い毛が雨で濡れて冷たくなっていて、地肌に触れるとほんのり温かい。それは犬の体温の、平熱だと言うことに気付いた。


動揺していたのだろう、結ちゃんはそれに気付かないみたいで、ひたすらに


「何で外に居るのよぉ」と泣きそうな声でモカをぎゅっと抱きしめる。


「とにかく、家に連れて行こう。すぐにタオルで拭いてドライヤーをかければ大丈夫」僕が促すと、結ちゃんはよろける足取りで一歩前に進んだ。


結ちゃんと一緒に森本家に向かうこと、一瞬躊躇したが、モカよりも青ざめてふらふらしている結ちゃんを一人で帰らせるわけにはいかなった。僕が彼女の肩を抱き、支えるように家に促し


モカを抱きかかえている結ちゃんに代わって僕が家のインターホンを押すと、中から昼間見た森本のお母さんが顏を出した。