あたしは―――……ひとを思いやる気持ちがあるのかどうか実際分からない。久米のことも覚えてなかった。だからあたしは最初敵だと思った。


思いやる気持ちが芽生えたのは―――きっと水月のおかげ。久米のおかげ。


水月のあの優しさに包まれ、それと同時に守りたいって思って、久米はあたしと一緒に闘う道を選んでくれた。


だから、今のあたしがあるのはあの二人のおかげ。


「冬夜はね、君のこと好きだと思うんだ。でも君は好きな人がいる、違う?」またも聞かれ


あたしは静かに頷いた。精神科医だからか、何でもお見通しなんだな。その考えをまたも読まれたのか


「君を見てると分かるよ。君は冬夜のこと大事に想ってくれているようだが、恋をしている目じゃない」


あたしは俯いた。


どうして、この人には全て見透かされるのだろう。誰だってあたしの内側を知らない。表情にも出ない。だから『何を考えてるのか分からない』とよく人に言われる。


精神科医って言うより、もはやエスパー?


でも、あたしの好きなひとが水月ってことは知られてない?


ちょっと疑うように…珍しいものを見るように目を細めていると


「長年この道で食べてきてるからね、ちょっとのことで分かるよ」お父さんは笑い、しかしここで初めて苦笑いに切り替えると


「あいつ失恋決定かー、今度はピザとって失恋会しないとな」と笑った。


お父さんの言葉は全然嫌味じゃなくて、むしろ気遣ってもらってるって気がした。


「あの…でも今度文化祭で劇やることになったんです。


白雪姫。


あたしが白雪姫で久米……とーや…くんが、王子さま役で…


良かったら見にきてください」


あたしと久米が、舞台の上とは言え、いっとき…ううん、一瞬だけでも両想いになれる場所。何の障害もなく、お互い見つめ合いスポットライトが浴びせられるその場所。


「冬夜が王子さま?それは面白そうだね。君のお姫様はさぞ舞台映えしそうだが」とお父さんは悪戯っぽく笑う。


「でも、そうだな―――見に行きたいな。


いや、行こう。空けておくよ」


お父さんは穏やかな微笑みを浮かべていて、あたしの心もちょっとあったかくなった。