玄関に向かう久米を、見送りのつもりであたしがついていった。


「久米…気を付けて」と真剣に言うと


「ちょっとそこのコンビニに行くだけだよ」と久米は笑う。


「そうじゃなくて。あんたあたしの彼氏って言う設定なんだよ?ストーカーがどこで狙ってるか分からないじゃん」と眉間に皺を刻むと


「割と人通りが多いから大丈夫だよ。それにこう見えて一応男だから」


いや、どこからどう見ても男だから。と突っ込みたかったけれどしなかった。


「父さんの相手、ちょっとしててくれる?大丈夫、さっきも言った通りいっつもあんな感じだから」と久米があたしの頭をぽんぽん。


心配、してくれてるって言うのかな、これは。


でも、これって願ってもないチャンスって言うやつじゃない?


久米を見送ったあと、あたしはお父さんがいるリビングに引き返した。


リビングではお父さんがローテーブルにコーヒーや紅茶のカップを並べていた。その動作を興味深そうに猫のオランピアがお父さんの腕にすり寄っていて、でもあたしを見るとまたサッと身を翻してテーブルの下に身を隠す。


どうやらあたしは嫌われたようだ。


「はは、ランは人見知りだから。気にしないで。慣れたら結構人懐っこいよ」とお父さんは朗らかに笑う。「因みに私にも最初は全然懐かなった。冬夜が近所の動物病院で貰ってきたときも。でも不思議と冬夜には最初から懐いていてね」


ふぅん、そう言うもの?水月の飼い犬のゆずは最初から懐いてくれたし、変わらず懐いてくれる。気紛れでもないし、いつもあたしに纏わりついてきて可愛い。


まぁ犬と猫って違いもあるしね。