食事も中盤に差し掛かっていた。


てかあたし、こんな所で呑気に寿司食べてる場合?ちゃんと謝ろうと思ったのに、そのチャンスがなかなか来ない。


いつ切り出そう、とずっと考えながら食事をしていたからか、美味しい筈のお寿司は少しも味を感じ取れない。そんなときだった。


「箸使い、きれいだね。きっとご両親の教育がしっかりされているようだ。ご両親は何をされてる人?」と唐突にお父さんに聞かれ、


「父は物理学者で、母は日本語講師で共にアメリカの大学で仕事してます。父の方は元々こっちの大学で講師をしていたんですが、向こうの大学で共同研究とかで引き抜かれたワケで」と説明すると


「へぇ、それは素晴らしい」とお父さんは目を輝かせた。


「鬼頭さんのお母さんは日本語講師って言っても英語とフランス語、ドイツ語がペラペラなんだ。トリリンガルって言うの?」と何故か久米が自慢げに言う。


てか久米、あたしのお母さんのこと何故そこまで詳しい。言ってなかった筈だけど?


ま、中学時代に言ったかもしれないけど。


「ほう、それはそれは」とお父さんの目に一段と輝きが増した。


だけどすぐにその光が薄くなり「と言うことは君は一人で日本に居るのかい?実家で独り暮らしみたいな」と心底心配した声で聞いてきて


「はい。でも隣に幼馴染と彼らのご両親がいるので、何かと頼ってます」


まぁ最近は乃亜や明良兄のおじちゃんおばちゃんより、水月の方を頼りにしてるけど。


「そっか、それなら良かった」お父さんは心配の表情からすぐに笑顔に切り替え、またもにこにこ。


何だろ、精神科医だからかな。笑顔があったかくて気が緩む。何でも話しちゃいそう。


寿司桶の中もほとんど無くなり、食事が終わりを見せるとお父さんは更に食後のお茶だと言って紅茶を用意してくれると言う。そこまで長居するつもりもなかったし、そもそも一言謝るのが目的だったから、この平和的な流れを打ち切って本来の目的を果たそうと思ったものの、


「あ、ミルクが切れてる。冬夜悪いがそこのコンビニに行って買ってきて」と冷蔵庫をパタンと仕舞い、お父さんが久米を見る。久米は面倒くさそうにちょっとため息をつき、しかし渋々ながら頷く。


「あ、あたしも付き合うよ」と腰を上げようとすると、


「遅いから冬夜に行かせるよ。大丈夫、帰りは私が君を送っていくから」とお父さんがにこにこ言って、結局久米が一人でコンビニに走る羽目に。