バスルームからおずおずと顏を出すと、バスルームのすぐ近くで久米が濡れた髪をタオルで拭っているところだった。部屋着なのだろうか、ボーダー柄のカットソーとチノパンと言うラフな格好だった。
「シャワーありがと」短く言うと
「ううん、でも男物のシャンプーしかなくて髪パサパサしてない?」と久米の手が何の躊躇もなくあたしの髪に触れて
「……大丈夫」短く答えてさりげなく距離を取る。前は―――久米に体の一部を触れられることさえ嫌悪感を抱いていたのに、今は意図も簡単にあたしの間合いに入ってくる久米。そしてそれを嫌とは感じなくなったあたし。
それは久米が―――二年前の美術バカだと認識してからだった。だってあいつはあたしの嫌がることはしない。いつも距離を測っているようで、でも時折予想もしなかったタイミングであたしの近くにいて、でもそれが心地よかったのは事実。あたしは今―――きっと二年前の自分に戻っているのだ。
そんなことを考えて、慌てて頭を振った。
「平気。水月の家にも最初は男物のシャンプーしかなかったし、保健医は……あ、千夏さんのあったからそれ貸してもらった」
「保健室の?林先生の?」と久米はちょっと驚いたように目をまばたき
「あー、うん。ちょっと諸事情があって」(※EGOISTE参照)
久米はちょっと考えるように首を捻り、でもそれ以上深く突っ込むことはなく
「そっか」と短く答えた。でもどことなくその表情が曇って見えた。
「言っとくけど、あいつとは何にも無いよ。諸事情っても、あいつが彼女と派手に喧嘩して…て言っても彼女の方が家出して、水月が心配だから付いててやってくれって」
「へぇ、神代先生が?あのひとも謎だよね。普通、自分じゃない男の家に彼女を向かわせる?」考えが理解できないと言った感じで久米が苦い顔付き。「それとも大人だから?余裕があるってこと?」
「信頼してるからだよ。あたしのことも、保健医のことも。まぁ事実、保健医は男って言うより小姑みたいだったから鬱陶しかったのもある」あたしはあの時のことを思い出して眉間に皺を寄せ腕を組んだ。
「小姑」久米はそこにきてようやく笑った。
その笑顔を見て何だかほっとした。



