サー…
シャワーの音が耳朶を打ち、あたし…何してんだろう。
頭からシャワーを浴び鏡に手をつき、ぼんやりと考えた。
今日は―――鏡の中で、もう一人のあたしは現れない。あれから鏡を見る度注意深く観察したけれど、そこには約17年間馴染みのある顏しか映らないことに少しほっとしていた。
最近は―――美術バカのことを思い出そうとすると頭が痛くなったり幻覚を見ないようになってきている。それはあたしの失った記憶と今の記憶が徐々に馴染んできたからか。
これは―――あたしが過去を受け入れようとしてるってことかな。
きょろきょろと視線を這わすと、バスルームは広くて明るい白が基調で、どこもかしこもきれいだった。ラックに置かれたシャンプーを借りて髪を洗う。雨で濡れていた髪が気持ち悪かったのもある。親切心で促されたシャワーは正直ありがたかった。
9月とは言え冷たい雨は体の芯まで冷え切っていて、熱いシャワーでじわりじわりと体が温まる。心地良い。
そして久米が使ってるであろうシャンプーは、ほんの少し久米と同じ匂いで、何だか久米に包まれてる錯覚に陥った。
いや…この状況どうよ。あたし(当然ながら)裸だし。久米に今抱きしめられたら、大問題だ。
じっくりとシャワーを浴びて身体が温まり脱衣所に出ると、脱衣籠の上にバスタオルやパーカーが置かれていて、これ…着ていいんだよね。ちょっと悩んだ。バスルームの脱衣所に置かれたドラム式の洗濯機にあたしのシャツが放り込まれていてくるくる回っている。どうやら洗濯してくれたみたいで、今は乾燥の段階みたい。
でも乾燥にまだ時間が掛かるようで、仕方なくパーカーを借りることに。制服のスカートは流石に洗うことをできず、あたしはスカートの上にパーカーを着ることにした。久米のパーカーはあたしに大きくて、ワンピースにみたいにになった。



