『ねぇ、ぶっちゃけどうなの?エミナ苛めにあってるの?』


と温度の感じられない淡々とした物言いでストレートに聞かれ


「……分からない。見た感じにはそうは思えないけど…」と何とか答えると


『だよね。あ、“分からない”ってとこね。そこでハッキリ“無い”て言い切ったら逆に不信感』とまたもハッキリ言われ僕は苦笑いを浮かべながら思わず頭を掻いた。


やっぱ結ちゃんは結ちゃんだな―――こうゆうところも、やっぱ雅に似ている。


『大体、先生たちだって万能じゃないし。生徒一人一人の動向を逐一チェックしてられるわけないよね』とも言われ、またも僕はぎこちなく頷くしかできなかった。


「結ちゃんは―――……思い当たるフシはないかな?」


何とか聞くと


『知らない、だって喋んないもん』とかえってきて、ああ激しくデジャヴュ…以前も雅に森本のことを聞いたら同じような反応だったな…


がくりと肩を落としていると、結ちゃんの背後で賑やかな声があがった。


「……結ちゃん外にいるの?」


『うん、こないだのファミレス。家に居るとお母さんのヒステリーであたしまでおかしくなりそうだから…』


こないだの―――…


「あ、じゃぁ今から行っていいかな。話したい事もあるし…」と切り出すと


『いや』


と即答。


「え゛!?」


まさかそんな答えが返ってくるとは思ってなかったからちょっとショックだ。


『…だって…先生の“話したい事”って何なのか想像できるもん…


エミナのことなら…百歩譲っていいよ。だって元々エミナの担任だもん。あたしにエミナのこと聞きたいって思うのが自然でしょ。


でも―――…



先生はきっとそれ以外の話をしたいんでしょ』



静かに言い放たれた言葉に僕は目をまばたきちょっと息を呑んだ。


当たっていたから。結ちゃんの気持ちに応えられないことをちゃんと伝えなければ―――後回しにすればするほど傷が深くなる……





『―――……嘘。いいよ、覚悟してるし…


てかどんな理由があろうと、“会いたい”て言ってくれてやっぱ嬉しいし』



結ちゃんの声は相変わらず強弱のない淡々としたものの様に感じたけれど、でもわざとそうしているのだろうことが分かった。声が僅かに震えている。


傷が―――深くならないうちに、僕が彼女の中から姿を消さなければならない。大丈夫、まだ引き戻せる。


そう思っていたが、このとき結ちゃんが負った傷は僕が想像するより深かった、そう気付くのは


手遅れになったときだった。