諦めて、…覚悟を決め、森本家に家庭訪問をしようと上着を掴み立ち上がろうとしたときだった。


TRRR…


僕のケータイに電話が掛かってきて、サブディスプレイに流れる


着信:結ちゃん


の文字を見たとき僕は思わず目を開いた。だって…タイムリー過ぎる。慌ててケータイを開けるも、ちょっとの間通話ボタンを押すことに戸惑った。それでも鳴り続けるコール音に、近くに居た先生たちがちょっと迷惑そうに顏をしかめていたから、僕は慌てて電話を取った。


『あ、先生?あたし』


「…う、うん!どうした?」変な風に勢い込んだせいで思わず声がひっくり返ってしまった。「もしかして不審者を見たとか?」と声を潜めて聞くと


『うーん…いたかもしれないし、いないかも』と結ちゃんの返事はどこか曖昧で


「?」マークを浮かべていることに気付いたのか、


『不審者を見かけたら、って言われたら何か全員怪しく見えるし』


なるほど……


「ごめんね、怖い思いさせちゃって」


『ううん、ありがと。ところでさ、エミナ帰ってきちゃったんだって?』


僕が聞きたかったことを先回りして聞いてくれて、ちょっとほっとした。


「うん……君は…何かワケを知ってるかな…」


『知らない』


ある程度予想していた答えだからさほどがっくりはこなかったが。


『エミナ、部屋に閉じこもっちゃって、お母さんが部屋の外で怒ったり、泣いたりしてる。仕事中のお父さんにまで電話掛けて“エミナが苛めにあってるかもしれない”って、ヒステリックに喚いてた』


苛め―――…



 『教 育 委 員 会』



僕の頭の中に五文字の漢字が浮かんできて、くらっと眩暈を感じた。