すぐ後をあたしがついてくると思っていたのだろう岩田さんが、ちょっと訝しむように振り返り、抱き合ったままのあたしたちを見ると、ちょっと驚いたように目を開いた。その視線と合った。久米は、きっと…岩田さんの視線に気付いていない。
岩田さんはほんの少し、悲しげとも寂しげとも取れる表情で眉を寄せ、あたしが彼女だけに分かる仕草で唇に指を当て「しー」と言うと、岩田さんは小さく頷き画材屋さんに一人入っていった。
岩田さんが戻ってくる間、3分ぐらいの間、そうしていた。やがて久米がはっとなったように顔を上げ、しかも何気にギャラリー?と言うかあたしたちを注目してる人たちがいっぱいいて
「ごめん…呼び止めて」と慌てて言い、こっちも……ううん、はっきりと分かる悲しそうな表情で
「いいよ。岩田さんが一人で行ってくれたから」
ようやく体が離れ、そこから岩田さんが戻ってくる5分程、今度は隣り合ってあたしたちは佇んでいた。口を開くことなく、ただ沈黙に身を任せて。
けれど、久米があたしの小指を小さく握っていて、あたしもそれを振り払おうとはしなかった。何も喋らずとも―――この繋いだ指から互いの感情が流れてくる。そんな感じがした。
岩田さんは小さなビニール袋を提げて戻ってきた。
「あそこ種類多すぎ!時間掛かった~」と明るく笑ってたけど、きっと気を使ってくれたに違いない。
「疲れたし、お茶でもしない」とあたしが提案すると
「うん♪」と岩田さんは楽しそうに頷く。
あたしは岩田さんのこの距離感が好き。水月のこと応援してくれてるけど、この複雑な状況をあれこれ突っ込んでこない。それでいてどこか察してくれる。この距離感が―――心地いい。



