「普通さ―――……」
あたしを抱きしめたまま、久米がぽつりと漏らし
「うん?」とあたしが聞いた。
「普通逆じゃない?頭ぽんぽんて」久米がちょっと笑った気配があった。
「別にいいんじゃない?」いつものそっけない物言いで言ったけれど久米はちょっと笑っただけで、それ以上何かしてくる気配はなかった。
「―――うん」たった一言、そう呟いてあたしの頭に顎を乗せてくる。
あたしは久米の制服をきゅっと握った。
「美術バカ。
一人だけ大きくなって」
一言言ってやると、今度こそハッキリと久米が笑ったのが分かった。
「まぁ身長はね、伸びたよね、鬼頭さんは胸が成長したかもしれないけど」
と意地悪さえ言えるぐらい復活したみたい。
あたしは再び久米のお腹に鉄拳をお見舞い。久米が泣き笑いをしながら腰を折る。
「…ってー!…鬼頭さん力強すぎ」
「煩い。一発だけで我慢してあげるんだから、ラッキーだと思いな」
あたしがまだ囚われた久米の腕の中逃げることもせず、久米を睨み上げると久米はほんの少しだけ柔らかい笑みを浮かべて、あたしの頭を引き寄せる。
「このまま―――こうしていたい」
あたしは再び久米の制服を握った。
今度はあたしの手の中をすり抜けることなく、いつまでもその感触はあたしの手の中。
触れる。
触れることを止める、でも
触れる。
その手があたしを受け入れてくれるって分かっていたから。
昔も今も―――こいつの手はあたしがどんな姿に形を変えようとしても
必ず受け入れてくれる。



