あたしと久米の手は、しかしさっきと同じ様に絡むことはなかった。
あたしが躊躇した。久米の手を握ろうとしたとき、一瞬だけ触れた。その細い指先が僅かに震えていたから。
―ごめんね
ごめんね
ごめんなさい
あなたの夢を奪って
ご め ん な さ い
たくさん心で謝った。いくら謝っても足りないぐらい。
だからこそ、あたしは久米の手を繋ぐことができなかった。
久米は戸惑ったように瞳を揺らしていた。
何もないフリ、何も気付いてないフリで顏を逸らし岩田さんの方へ向かおうとしたとき。
ふわり
柔軟剤と……ほんのちょっと男物の香水が交ざった爽やかな香りで包まれて、ふいに頭を引き寄せられる。
「―――……らないから…」
久米の言葉は消え入りそうなぐらい小さなものだった。あたしは久米の腕の中、耳を傾けた。
「“ごめん”とか、いらないから―――」
久米はそう言った。
「“ごめん”て言われるとさ―――まるで俺がフラれたみたいじゃん」
久米はわざとらしく言った。その肩が小さく震えていることに気付いた。
うん、確かに間違った答えだったね。
「ありがと、美術バカ」
あたしは目を閉じて全身で久米の重みを受け入れ、ぎこちない手で久米の柔らかな髪、頭をぽんぽん。
「ありがと。
あたしを守ってくれてありがとね、
とーや」
でも
好き、と言う言葉は最後まで喉元から出ることはなかった。
ごめん
あたしは今度こそ謝った。
きっとあたしは久米のこと『好き』
でもその『好き』は男に向けての感情じゃない。人間としては好き。
ごめんね
あたしは水月が好き―――



