でも、岩田さんは王子さま久米に弱いのか
「うん、行ってくる!あそこの文具屋さんで手に入るよね」と言って駆け出す。岩田さんが向かった先には岩田さんが言ったようにThe文房具屋さん…?と言うより結構本格的な画材屋さんみたいだった。大小様々なサイズのキャンバスやら、額縁、数えきれない程の色で溢れた絵具たち。
岩田さんの背中を見守るように歩き出し、けれどあたしの一歩は途中で変な風に止まった。
久米―――…?
何となく気になって久米を見ると久米は近くの太い柱に身を任せ、うつむき加減の姿勢で拳を額にやっていた。前髪の先が手の甲をさらりと滑って、久米の表情は完全に分からない。
あたしは先を向かう岩田さんを追うことを止め、久米に向き合った。あたしが歩を止めたのが気配で分かったのか、久米がゆっくりと顏を上げる。
久米の顏を真正面から捉えて視線が合うと、久米は慌てて顔を逸らしバツが悪そうに俯く。
―ごめんね
そう言う意味を込めて、あたしの手は自然久米の右手に伸びていた。
さっきは―――あんなに簡単に手を繋いだ。あたしが望まなくても、自然にその距離を縮めて。まるで最初から決められていたように。あたしたち二人の姿をそのきれいな額縁に収めて―――
けれど、いつからかその額縁からあたしの姿が抜けだした。無邪気に駆け回る少女のような気軽さで、その縁から出たんだ。
戸惑ったような……寂しそうな…少年――美術バカの残像だけをまるで陽炎のようにゆらりと残して。
その額縁をあたしを今眺めている。そんな気分になった。
―――手を伸ばせば―――あなたも抜け出すことができるのですか。



