久米はあたしたちの会話を聞いていないようで、マイペースに手帳をめくっている。
「いいからあたしの言う通りにして」
乃亜に言い聞かせると、ただ事ではない表情を悟ったのか乃亜は大人しく電話を掛けはじめた。
久米が手帳を閉じ、あたしの方をちらりと見る。
「鬼頭さん帰る?だったら一緒に帰らない?ほら、不審者が出たって言うし」
と久米は心配そうに窓の外に目を向けた。
「あたしのこと心配してるの?」探るようにそう聞くと、久米は心配そうに眉を寄せたまま、
「そりゃそうだよ。一人で帰るのは危ないよ。楠さんも一緒?だったら三人で」と口を開いた。
「ううん。乃亜は彼氏と一緒だから、あたし一人」
「じゃぁ二人で帰ろうよ」久米がちょっとだけ淡い笑みを浮かべて、あたしは考えるように目だけを上げた。
「いいよ」
短く答えると、久米はあからさまにほっとしたように安堵のため息をついた。
――――
――
下校で賑わう廊下を久米と歩きながら、あたしは隣を歩く久米に聞いた。
「ねぇ、手どうかしたの?」
久米は一瞬何のことを言っているのか分からない、といった感じで目をキョトンとさせ、やがてちょっと目を開いた。
「ちょっとつき指しちゃったみたいで」そう言って右手をひらひらさせる。
右手―――……
「つき指?大丈夫?」
「平気。心配してくれてありがとね」久米は笑ったけど、どこかその笑顔が引きつって見えた。
「ふぅん」あたしはちょっと目を細めて久米の手元に目をやり、
「つき指だったら保健室行って湿布貰ってこようよ」
そう提案した。



