『見て分かんない?課題やってるの』
あたしは彼から目を逸らさずにそっけなく言った。
そう返すことで、その彼が嫌な顔をして帰っていくかと思ったから。
人と関わるのはどうも面倒くさい。
だけど彼はあたしの思惑とは反対に、にっこり口元に笑みを浮かべた。
『こんな誰も居ないところで?うちでやらないの?』
『あたしがどこで何しようが勝手でしょ?』
『え……うん……』
彼がたじろいだように、ちょっと声を低める。
だけどそれはほんの一瞬で、
『ボク、美術部なんだ。今は美術室誰もいないし静かで描きやすいよ?』
とすぐに明るく答える。
『は?いかないし。ってかあんた矛盾してない?誰も居ないところで?って聞いておきながら誰も居ない美術室勧めるなんて』
『えっ!?あ!ごめん!!何にも考えてなかった……』
彼は言葉を濁し、恥ずかしそうに鼻の頭をちょっと掻いた。
繊細できれいな指先が絵の具で汚れている。
『美術バカ』
あたしはそっけなく言って、机を飛び降りた。
彼はあたしの嫌味にもへこたれないで、笑っていた。
その笑顔が
あたしにはどうしても思い出せない。