HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



根岸を盗作に駆り立て、D組は濡れ衣を着せられた。


僕が―――……


思わず眉間に皺が寄るのが分かった。それを何と勘違いしたのか、根岸ががばりと頭を下げ


「す…!すみませんでした!


まさかあんな騒ぎになるなんて…思ってなかったんです。僕は…いつも馬鹿にされてて、実行委員も押し付けらて……ちょっと見返してやりたい、僕だってちゃんとアイデアを出せるんだって……そんな軽い気持ちだったんです…


でも…それで何か変わることはなくて……むしろ僕の知らない所でどんどん騒ぎが大きくなっていって……


A組とD組の…い…一騎打ちだって聞いて…今更ながら怖くなって…」


根岸は早口で説明をする。まるで気弱な犯罪者が刑事相手に犯行を自白するような勢いだ。


「そうだったのか」僕が何とか言うと、根岸はこちらの顔色を窺うようにそろりと顏を上げる。僕はそんな根岸になるべく怖がらせないよう、努めて明るく振舞い


「ま、事態は動き始めてるし、仕方ないよ。根岸が気にすることない。それに僕は絶対に根岸がやった……とは言わないから、安心して」


ぽんと軽く根岸の肩を叩くと、根岸は深いため息をついた。その細い肩から力が抜けていくのが分かった。まさに『肩の荷が下りた』と言った感じだ。


それでもまだちょっと疑うように目だけを上げると


「お…怒ってないんですか…」と弱々しく聞いてくる。


「怒ってないよ。てかむしろ僕の失態だし」と逆に恥ずかしそうに頭の後ろを掻くと、根岸は安堵したように吐息をつき、今度こそ箸を動かし始めた。


「まぁ“アイデアが被った”ところで、一騎打ちになろうとA組には負けないけどね」と悪戯っぽく笑い「お昼休憩終わっちゃうね、早く食べないとな」と僕が話を変えると


「は…はい」と根岸は箸を動かせる。


弁当も残り少なくなってきたとき、根岸はだいぶ打ち解けてくれたみたいで、僕にさっきのノートを見せてくれた。僕がちらりと見たときと変わらず男女のイラストが描かれている。


「やっぱ上手だね、あ…でも…この女の子、ちょっと楠に似てるな」


大きな目にふわふわの髪。笑顔とか、ちょっと拗ねた表情とか…。何気なく言った言葉なのに、向かい側の根岸は顏を真っ赤にさせてまたも俯いた。


この反応…


もしかして…モデルは楠?