HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



だってあの二人、そんな素振り少しも――……


「…最初のうちは結構仲良さそうに見えました……二人とも…目立たないタイプで…


確かに堤内さんは一年のときもちょっとキツめな性格でしたけど…」


根岸が言ってはいけない何かを告げ口しているみたいに、弱々しく消え入りそうな声で言った。


でも、なる程。彼女らが同じクラスで、しかも階級で言うと底辺に居たことを察した。


でも、そうだったら何故―――……


僕の疑問を感じ取ったのか、根岸は更に続けて


「……ところが…去年の冬ぐらいに…森本さんの成績がちょっと落ちて…逆に堤内さんは上がってました……去年の期末考査のとき……堤内さんは、鬼頭さんに次いで上位になったんです…


とは言っても…不動の女王……」と根岸は言いかけて慌てて咳払いをして


「鬼頭さんには、やっぱり勝てませんでしたけど……」


不動の女王―――と言う言葉は雅にぴったりな気がした。女王様気質ではないが、彼女の成績に対して右に出る者はいない、と言う意味で。


「まぁあの子は…」と僕も言葉を濁した。



“天才”だから―――と言いそうになったのを何とか堪える。



「でも……鬼頭さんとの総合得点差は…たったの5点で…


堤内さんは……ちょっと悔しそうにしてましたけど…でもそのときの女子が…殆ど鬼頭さんを嫌ってて、『あの鬼頭を打ち負かせる』って……堤内さんもまんざらじゃなかったんですよ。それから……底辺ら辺に居たのに…あっという間に持ち上げられて……」


なるほど、そこで階級がひっくり返ったと言うわけか。


「そうなると……今まで仲良くしてた森本さんを…たぶん煩わしく思っちゃったんじゃないかな…って」


そう言うことか……


「そこから……堤内さんは、ちょっと派手めのクラスメイトとつるむことが多くなって…逆に成績が落ち続けていた森本さんは……ちょっとクラスから浮いちゃって…」


「それで、そんな人間関係に疲れて、森本は特進クラスの話を蹴った、と言うわけ?」


僕が目を上げて聞くと


「……たぶん…」と根岸は自信無げに答えた。「成績が落ちたって言っても……特進クラスの枠を外れる程でもなかったし……それしか…」


「なる程、直接的…とは言い切れないけれど、堤内の存在を気にしてってこと…」


「…あ!あくまで僕の…個人的意見って言うか…傍から見たら、そうかなって…」


根岸はあくまで自信が無さそうにハッキリと断定したわけではない。まぁ僕も彼だけの話を鵜呑みにはできないが。本当の所はどうなのか―――




「でも……森本さんは…その道を選んで


正解だったのかも……」




根岸はそう付け加えて、俯きぼそりと呟いた。