ここで何故森本の名が挙がったのか、不思議だった。
その様子を察したのか、根岸がまたも俯きながら
「すみませ……その…さっきの……森本さんのお母さんとの話……聞こえちゃって…」
ああ、そう言うことか。
て言うか聞かれていたことに今更のように恥ずかしくなった。僕はあの妙な勢いのある森本の母親の前で、彼女を宥めたり否定したりするどころか、自分の考えを述べることすらできなかった。
教師失格だ。
頼りない担任だと根岸に思われてたと思ったが
「僕……森本さんと……一年のとき…お…同じ!クラスだったんです」
え―――…?
僕は顏を上げた。根岸は依然俯いたまま、視線を自分の弁当ら辺に彷徨わせて、しかしその視線を忙しなく付近をキョトキョトと動かしていた。
「先生は、スクールカーストって知ってますか…」
突如質問を投げかけられ、僕はぎこちなく頷いた。
生徒の間に自然発生する人気の度合いを表す序列を、カースト制度のような身分制度になぞらえた表現だとか。
何でも思春期頃に親から分離した人格を得て親友を作っていくという発達プロセスを適切に踏むことができていないからか、同じ価値観を持つ親友同士からなる教室内グループを形成することができずに代わりにスクールカーストという階層が形成されているらしい。
これは月に一度出入りしているスクールカウンセラーの話に寄るものだった。スクールカウンセラーと言っても月に一度程度で生徒にどう寄り添って行くのか、ちょっと不信感を抱いていたが…まぁ言ってることは当たってたってことだよな。
スクールカーストの一般的なイメージは、上層部に居る人間は容姿に恵まれていたり、運動神経が優れていて、バスケやサッカーなんかの花形部に所属していたり、場の空気を読んでリーダーシップを取る者、所謂『不良』と呼ばれる生徒で逆らえない雰囲気のある者が挙げられるが、
反対に、オタク系や引きこもり系、暗かったり大人し目の人間は下位になってしまう。
つまり、僕のクラスで言うと上層部に居るのは、雅や楠、梶田や久米と言った目立ったメンバーになるだろうが、僕のクラスの生徒たちがそれを意識しているとは到底思えない。つまり、良い意味でまとまっている、悪い意味で我関せず。
「実は……森本さんと…堤内さんも、同じクラスだったんです」
え―――?またも僕は驚いた。



