「こ……これは!」と細い体をさらに縮こませてノートを大事そうに抱きしめる。その顏は元が色白だからか真っ赤に染まっていた。
「凄く上手に描かれているね。漫画家目指してるのかい?」僕が聞くと、根岸は顏を上げ、その表情はちょっと驚いたような…虚をつかれたような感じだった。だがすぐに俯くと
「……いえ…」とぼそぼそと返事をかえしてくれた。
何となく腕時計を見やると、昼休みが半分以下になって僕は慌てて
「じゃ、僕はこれで」と今度こそ職員室に向かおうとほとんど足がそっち向かっていたが
「あ……あの…!」
根岸はノートをきつく抱きしめながら俯いて声を発した。
……どうしたって言うのだろう…
何か言いたそうにしていたから、僕は振り返って彼に向き合うと
「こ……このこと…誰かに…」と、またボソボソと口の中で聞いてきて
「言わないよ。安心しなさい」と根岸を安心させるためにその細い肩を軽く叩くと、根岸はビクリと一瞬肩を震わせたが、僕は気にしない振り。根岸の自信の無さそうなこの反応は周りを警戒している、或は怯えている。そのどちらか、と。そう感じた。どちらにせよ良い反応とは思えない。
「ヤバ…昼休み終わっちゃう」と独り言を漏らし、僕は警戒するに値する人間でもないし、ましてや根岸を不安に陥れようなんて考えてない、と意味を含ませ歩き出そうとした。
「あの……!」
また呼び止められて、振り返ると、やはり根岸はノートを抱きしめたまま俯いていて僕は目を細めて僅かに首を捻った。やがて根岸が思い切ったように顏を上げ
「は…話したい事が…あります……
せ、先生に……神代先生に…」
と消えそうな声で言われて僕は目をまばたいた。



