来賓の昇降口までお母さんを送っていき、両者がきちんと頭を下げ別れたときは、お昼の休憩時間も中頃だった。何だかどっと疲れが来た。疲労感を滲ませながら、とりあえず職員室に戻って急いで昼食を摂ろう、体力を付けなければ、そう思って踵を返すと
ドンっ
僕が周りを見てなかったせいで誰かと激しく衝突して、僕は何とか踏みとどまったが体格の差か、それとも武道の経験の差か、ぶつかったことで尻餅をついていたのは―――
「根岸―――…」
根岸は転んだフシにずれたメガネを慌てて直し、散らばった参考書などの類をかき集め、慌てて立ち上がろうとする。
「ごめん、大丈夫だった?怪我は?」と彼を手伝う意味で僕の近くまで滑ってきたノートのようなものを拾った。中が開いた状態で表紙側だった。中身を敢えて見ようと思ってなかったが閉じようと思ったときにちらりと見えた。
鉛筆で描かれたイラストが。
興味心をつつかれて僕は彼の了承を得ずノートを捲った。イラスト、と言ったがそれは漫画で、高校生ぐらいの男女が制服姿で笑ったり怒ったり、表情豊かに描かれていて、結構上手だった。久米の絵も上手だと思ったが―――
「これ、根岸が?へぇ上手だね」と僕が感心すると、まさか僕の手にそのノートが手渡っていたとは分からなかったのか根岸は一瞬きょとんとしたが、すぐに気づき僕からノートをひったくる。



