HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



不審者―――…だからさっき水月は慌しく和田と行ってしまったんだ。


しかも双眼鏡を使って学校を覗いていた……


あたしは窓の外を見た。


不審者を見つけた教師に気付いて、そいつは慌てて逃げていったらしい。


だから結局捕まえることもできなかったみたいだけど。



そいつが―――ストーカー……、と決め付けるには安直過ぎる。



あたしはまだ……疑っている。


久米があたしを付け狙ってる犯人かも、って。


ちらりと隣の久米の様子を伺ったけれど、久米は唇を結びじっと前を見ていた。


その様子に別段不審そうなものは感じられない。


ホームルームを終えると同時にほとんどの生徒が席を立ち上がった。


みんな早く帰りたくてしょうがなかったみたい。


「雅、帰ろ~」と乃亜があたしの肩に手を置いた。あたしは机の上で手帳を開いている久米から目を離さずに、


「ごめん、あたしちょっと用ができた」と言ってちょっと手を上げた。


「用事?」と緊張感を欠いた乃亜の声を聞いてあたしは振り返った。


「乃亜、今日明良兄に迎えに来て貰って一緒に帰って。それがダメなら梶に送ってもらって」


「え……うん。雅心配してるの?不審者が出たから」


乃亜が心配そうに表情を曇らせる。でもすぐに「心配性だなぁ。大丈夫だよ」なんて笑う。


ただの不審者だったらいい。覗き見が趣味の変態だったらそれでいい。


だけどそいつがあたしをストーカーしてるヤツなら。





こいつは乃亜のことも付け狙うかもしれない。