結局、苛めがあった無いの議論に決着は付けられず…と言うか把握できてない僕も悪いが、今度から生徒たちを注意深く見ておく、と言うことで何とかまとまった。
しかし、そうなると森本が帰っていった理由が何なのかは分からず。
苛めは―――恐らく無いと思う。
確かにクラスメイトは森本を鬱陶しがっているようには思えるが、問題児ばかりのクラスと言うのはある意味、全員が“不良”―――と言う言い方は古臭いが、ある意味団結していて、そう言う生徒たちだからこそ、陰湿な苛めをするとは思えない。
そう、『陰湿』なのだ。
僕の生徒たちは形はどうであれ、やはり『悪い』部分は目立つが、それは目に見えて分かる。例えば授業をさぼる、とか。制服を違反してくる、とか。先生に反抗的、だとか。そんなレベルだ。言うならば必要悪。
そして必要悪には良い意味でも悪い意味でも独自の世界があるのだ。その『独自の世界』と言うのは説明できるものではなく、あくまで教師からの目線だから当てになるとは思えないが、少なくとも僕の目には彼らが森本を苛めている、と言う感じには見えなかった。
そうなると、益々森本が帰っていった理由があのシールのメッセージに寄るものではないか、と思える。顏を真っ青にさせて震えるぐらい、あのメッセージの悪意を全身で彼女は感じ取ったのではないか。ストーカー犯一行の中でしか分からないある意味シルシ的な。
森本のお母さんを送って行こうとして、応接室の扉を開けると、ちょうどA組の根岸が通りかかる所だった。気弱そうな細い肩を一瞬びくりと揺らし、慌てて駆けていく。
苛め―――を受けているのは明らかに根岸だ。
それを石原先生は知っているのか。いや、あの様子からすると知らないだろうな。僕としても他クラスの生徒にあれこれ言えないし、もし根岸を問い詰めたら更に苛めはエスカレートしていくに違いない。
学校と言う名の狭い“社会”、そしてその“社会”で起こる苛め―――は切っても切れない問題だ。
はぁ
僕は小さくため息をはいた。



