HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



森本のお母さんはこの学校の応接間と言う名の小さな来客用の部屋に居るらしく、重い気持ちを引きずりながら僕がその扉を開けると同時、中に居てソファに座っていただろう彼女は腰を上げてきれいに一礼した。


お茶出しなどの対応をしていた事務員の女性が、どこかほっとしたように表情を緩め、僕と入れ違いにそそくさと出て行った。


「こんにちは、今日はどういったご用件で」


僕の方が先に切り出した。森本のお母さんをソファに促すと彼女は大人しくソファに逆戻り。


しかし


「どうしたもこうしたもありません」と開口一番ピシャリと跳ね除ける言い方に僕は面食らった。


「エミナは学校へ行ったと思ったらすぐに帰ってきて、『どうしたの』か理由を問いただしても答えてくれませんでした。でも顔色は真っ青でブルブル震えていて、私、エミナを連れて病院へ行こうとしましたが、それも嫌がって」


お母さんは苦々しく言い顏をしかめる。


帰って―――……?


森本が逃げるように教室から飛び出してきて、あの後どうなったのか分からず、僕は一度森本家に電話を入れた。昼食を摂ってから改めて連絡を入れようとしていた矢先のことだった。


「先生、単刀直入に聞きます」


お母さんの目尻が怪しい光を湛えて一瞬光ったように思え、僕はちょっと顎を引いた。後ろ暗いことはない。居竦んではダメだ、と言い聞かせるよう目だけはしっかりと彼女を捉えて顏を逸らすことはしないように。




「エミナ、本当は苛めにあってるんじゃないですか」