HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



昼休憩に入り、昼ごはんを食べようと今朝コンビニで買った弁当をデスクの上に置いてまさに今割りばしを割ろうとしていたときだった。


「か、神代先生…!」と、三年生の物理担当教師の泉先生(♂)が慌てた様子で僕のデスクに走り寄ってきて「今度は何だろう…」と心の中で訝しんだのは、流石に顔には出さなかったけれど。


「来てますよ!」


泉先生は顏色を青ざめさせて、手振り身振りで説明。


来てる??誰が?


と、きょとんとして彼を見上げると


「森本の母親ですよ!」


と、泉先生は焦れたように勢い込んできて


「……え」そのときようやく事態が把握できた。


泉先生は―――……確か去年の一年生の物理担当だった。と言うことは、森本のクラスも受け持っていて、この様子からして森本の母親とも面識があったのだろう。どんな風に彼女に責めたてられたのかは分からないが、少なくとも良いイメージではなさそうだった。


それどころかトラウマ感を滲ませている。確か…歴史の先生の宮内先生は森本の母親のせいで胃を壊していっとき入院していたとか。所謂モンスターペアレントだ。


「森本のお母さんがどうして?」と僕が目を上げると


「知りませんよ。とにかく神代先生をお願いします、とだけ。でもあれ、相当怒ってる感じですよ、見たら分かります。神代先生も気を付けてください」と、気の毒そうに言われて同情気味に眉を寄せる。


僕は小さく吐息をつき


「分かりました」と、頷くしかない。


僕は以前、家庭訪問した際の状況を思い出した。森本のお母さんは一応は僕の話を聞いてくれて、想像していた…一方的にまくし立て怒鳴り散らす、と言う感じではなかったが、どこか逆らえないオーラのようなものを漂わせていて…


一般的な家庭の母親像にも思えるが、僕が彼女の本質をまだ知らないだけかもしれない。だから油断はならない。