「神代先生は……その…鬼頭と付き合ってるんですよね…。鬼頭と久米が付き合ってるって噂が出回っているのにどうして平静でいられるんですか」
和田先生は本気で僕たちの仲を心配してくれているようだ。そんな彼に嘘を着くのは心苦しい。
が…
「……僕、フラれたんですよ…」
まぁ事実、いっときはそうだった。
「え……別れたんですか……先生はそれでも平気なんですか」和田先生は眉を寄せる。生徒と付き合ってることを応援してくれてるわけではないが、教師の前に人間として友人として単純に僕を心配してくれてるのが分かった。
こんなに親身になってくれてる和田先生を騙してるのは流石に心苦しくて、僕は少しだけ本当のことを喋った。
「あれは……ちょっとしたカムフラージュですよ。僕と鬼頭が付き合ってるって事実を隠す為…。まぁ今は半分別れてるようなものですが。久米は協力してくれてるって感じで…」
「でも、こないだ階段で久米と喧嘩してましたよね」和田先生は眉間に皺を寄せ僕を真正面から見据えてきた。
まぁ、確かにあの喧嘩は本気だったが、
「ちょっと……複雑な事情がありまして」
と答えるしかできない。
和田先生はそれ以上問いただすことはしてこなかった。
「まぁ、神代先生がそれでいいのなら……」と渋々と言った感じで頷く。本気で心配してくれてる、と言うのが分かったが、まさか雅がストーカーされていて、それも複数の人間が絡んでるとは言えない。
「“全て”終わったら全部話します」僕が言うと
「“全て”―――……?」と和田先生は目をまばたいた。僕の表情がよっぽど険しかったのか、和田先生は一歩後退した。
「ええ、“全て”です」僕は真剣に再度言い置くと、和田先生も何かしら察したのかもしれない。どこか納得のいった感じで大きく頷き
「いずれ―――…いずれ神代先生からちゃんと説明してくださると信じてます。
なので、どうか無理をなさらず」
和田先生の温かい言葉に気持ちが緩む。全て打ち明けて彼にも協力してもらった方がいいんじゃないか、とさえ思ったが、この人の良い彼を巻きこむわけにはいかない。僕は今度はちょっと微笑んで
「ええ、必ず」と返した。



