店の中、近くで「おねーさん、生一つ!」と客の誰かがウェイトレスの一人に声を掛けて呼び寄せていた。その声が聞こえたのか
『先生、外に居るの?』と結ちゃんに聞かれて、僕はちらりとまこの方を見た。まこは黙ってジントニックを飲みながらタバコをくゆらせていた。
「うん…同僚と久しぶりに飲みに…」
『そっかー、今度あたしも……』と言いかけて、だけど次の言葉を飲み込んだようだ。『ううん、何でもない。シールのこと調べてたんでしょ?何か分かった?』と聞かれ
「うーん……分かったような分からないような…」
『何それ』結ちゃんが電話の向こうで今度ははっきりと声を立てて笑った。
『でも、あたしなんか役に立てて良かった。また何か分かったら電話するね』と、僕が同僚と飲みに来てることを気遣ってか、早々に電話を切ろうとする結ちゃん。
「うん、わざわざ電話ありがとうね」僕もそれ以上長話をするつもりもなく、何となく流れで切り上げた。電話を切ってまこを見ると
「森本姉は何て?」とまこが興味深そうに聞いてきた。手にガーリックシュリンプの一つをつまんでいる。
僕は結ちゃんとした会話をまこに言うと、「あんま中身のない電話だな。森本が何を企んでるのか知りたかったけどな」と口をもぐもぐさせて言う。
「そんな…企んでるなんて…」とは口では言ったものの、やはり僕も森本がこの事件に深くかかわっていることを全く疑ってない、とは言えない。
結局、パールのピアスのことは言い出せなかった。大体にして、どうして僕が結ちゃんのパールのピアスを持っていたのか聞かれたら説明に困る。
「まぁこの事件が解決したら一部始終を話して返せば?」とまこは他人事だ。
だけど―――早々、この事件が解決するとは思えない。
このピアスを返すのは
まだまだ先になりそうだ。



