最初に頼んだ生ビールと、鮭のマリネや生ハムチーズや、チョリソーなんかをつまみにしながら、
「ねぇ、まこは右門 武史の先輩だよね。先輩としてのツテで卒業アルバムとか見れないの」と聞くと、まこはちょっと困ったようにこめかみを掻き
「やろうと思えばやれるだろうけど、当時の職員は殆どが異動したか退職したか、だし。いくらOBだからってやすやす見せてもらえないだろ。今は個人情報に煩いからな」と小さくため息。
確かに…
そして卒業アルバムを見たところで、何の情報も得られないだろうことが想像できた。きっと居住地だって変わっているだろうし。
きっと雅だってそう思っている筈だ。だからそのことは敢えて口に出さなかった?
僕の考えが浅かった。
「でもさー、なぁんか腑に落ちないんだよなー」まこがビールのグラスを傾けながら「うーん」と唸る。
「腑に落ちない?」
「だってさ、あの薔薇のシールを持ってたのって森本だろ?忘れたのかお前。森本に、お前と鬼頭が付き合ってるってこと知られただろ」
「そう…だった…」あれは完全な僕の失態だ。けれど森本はそれ以来、いやそれ以前もそのことに関しては何も言ってきていない。
「てことはだ、鬼頭の彼氏が誰だか知ってるってことだろ?手あたり次第、脅迫文を送ってるって辻褄が合わなくね?」
確かに…
「犯人は雅の彼氏が誰だか見当をつけていない。けれど森本は知ってる。と言うことは森本はあの薔薇のシールを偶然持ってただけ、と言うこと?」
「さぁ。てか、そんな偶然てあるか?まぁそこんとこ考えても埒が明かないけどな」
まこは太いため息を吐き
「……ごめん、変なことに巻きこんで」
と言うのも、まこの元にも脅迫めいたことが来ていた。あろうことか千夏さんを楯に。
まこはちょっと眉を下げぎこちなく笑い
「バーカ、そんなこと気にすんなよ。お前はすぐ考え込むから。鬼頭ぐらい図太く生きろよ」
と言って僕を軽くでこぴん。
てか(雅もそうだけど)まこも相当図太いよ。
「まぁ?俺は千夏のことも大事だけど、お前と鬼頭も大事なの。だから巻き込まれたとかこれっぽっちも思ってねぇから」
まこはふいと顏を逸らし、その頬が僅かに赤くなっていた。まこに限ってビール一杯で酔うなんてことはないだろうし、そもそもまこはどれだけ飲んでも顏に出ない。
「もしかして…照れてるの?」僕がまこの顏を覗きこみ、ぷっと笑うと
「煩せぇな、ガラにもないこと言って顏に血液が集中してんの」とまこはまたもぷいと顏を逸らす。
あはは!僕は声に出して笑った。
だけど冗談を言ってる場合じゃない。
僕は一枚の写真をテーブルに置いた。



