HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



水月の視線はいつになく真剣で、あまり気分が良さそうじゃなかった。


探るような視線で久米の動きを追いかけている。


どうしたんだろう……


そんな風に思っていると、その背後に現国の和田が現れた。


なにやら慌てた様子で早口に水月に何かを伝えると、水月はちょっと名残惜しそうに久米をちらりと見て、それでも慌しく和田と共に姿を消した。


何かあったのだろうか。


生徒が怪我したとか―――?いや、そんなんだったらわざわざ水月を呼ぶ必要はない。


「久米!」


梶の声がして、あたしは弾かれるようにコートに視線を移した。


梶が久米にパスをしようとしていた。


久米は受け取る姿勢に入った―――


久米の手のひらにボールが飛んでくる。


だけど久米の手はボールをキャッチすることなく、するりと落ちた。


バンっ


ボールは僅かにバウンドしてコロコロと転がった。


パスミス?


いや、梶はほとんど正確に久米の手元にボールを送っていた。


取れないほどのスピードがあったわけじゃない。なのに久米はボールを取りそこね、


まるでそこだけ…彼だけ時間が止まったように―――その場に固まった。





ピー…


試合終了を告げるホイッスルがなった。


弾かれたように久米がはっと我に返り、「悪い」と苦笑いを浮かべて梶を見る。


「どんまい」たかが授業のゲームなので、梶もそこまで怒ってはおらずに軽く久米の肩を叩いた。


でも久米は曖昧に苦笑を返して、手のひらをじっと見つめていた―――