久米は―――中学時代の美術バカ……ううん、とーやの顏に戻る瞬間がある。
あのときあたしは確かに久米に心を許していたし、友達の居なかったあたしに唯一仲良くしてくれた久米を思い出す。前はあたしが美術バカに心を許していたとき、顏を真っ赤に染めて恥ずかしそうに顏を背けていた。
久米はドレス作りに区切りを付けたのかドレスを脇に避けると、舞台を飛び降りた。
記憶の欠片を集めるように、少しずつ……あたしは中学時代の久米を形を作って、忘れかけていた久米の一つ一つを形作る。
あの時のあたしは少なからず久米に心を開いていた。
久米は―――「僕を置いて一人大人にならないで」と言っていた。でも大人になったのはあたしじゃなくて久米の方…そんな気がした。
舞台に立ったままのあたしが久米を見下ろす形になった。
「俺が守るって決めた。
あのとき、俺は鬼頭さんを守り切れなかった。
だから俺は―――今度こそ鬼頭さんを守り抜きたい」
久米は―――あたしを守ってくれた。大好きな美術の道を捨ててまで、全身全霊で
あたしを守ろうとしてくれている。
何だよ、すっかり大人の男に成長しちゃってさ。
やっぱ久米は―――あたしが思った以上、あたしより早く大人になった気がした。
でもあたしは中学時代の美術バカも結構好きで。忘れかけていた感情が少しずつ…そうほんの少しずつだけどあたしの中に美しかった想い出がじわりじわりと……まるで白いキャンバスに色を足して行く感じで鮮やかに蘇る。
久米はあたしのせいで右手を失った。物理的な損失ではなく、久米の夢を―――あたしが奪った。それなのに、久米は今でもあたしを守ろうとしてくれる。
右手を犠牲にしても、尚。
ねぇ久米―――右手を失ってもあたしを守ろうとしてくれたのは、あんたの夢を断ち切ってもあたしの存在は久米のとって大きな物なの?
あたしは―――久米に守られる程できた人間じゃないのに。
どうしてあんたは―――あたしを一途に想ってくれるの。求めてくれるの?
顏を逸らした久米の顏はほんのり赤身がさしていて、「き…キザだったかな」と恥ずかしそうに言い、またも中学時代の久米の顔に戻る。
あたしは久米の存在を忘れていたのに、どうしてあたしをそこまで求めてくれるの。
「うん。キザ」
はっきり言うと久米は顏を戻し、苦い顔つきで顎をちょっと引く。
「相変わらずハッキリ言うね」
中学時代と変わらないもの。
それは―――どんな形であれ、今ではあたしが久米に気を許してるってとこ。
「とーやのバーカ。
美術バカ」
あたしは、いつかの…あれは久米とはじめて手を繋いで帰った日、夕暮の中だった。
その時の台詞で久米を見下ろしていると、久米ははにかんだようにちょっと笑った。
その笑顔は
やっぱり美術バカの笑顔だった。



