「何なの堤内。ムカつく」
久米と二人きりの競技場で思わず悪態が口についた。
久米は舞台の端に座り、あたしの衣装……ドレスの裾を豪華にする為黒いレースとゴールドのチュールレースを縫い縫い。意外だけど久米はやっぱ手先が器用だ。こいつに任せて正解かも。
「ほっとけばいいよ。あんなの、無視が一番」とさっきあれほど怒ってた久米は一人冷静に、今は針と糸に夢中だ。
そんな真剣な久米を覗きこむと
「ねぇ久米、あんたは接近戦が得意って言ったけど、あたしも得意なんだよね接近戦」
と、にこっと笑うと、久米は気味の悪い何かを見るように顔をしかめ
「何…」と顏を引きつかせる。「鬼頭さんが笑うとき程怖いことはないよ」
あら、察しがいいようで。
「歯ぁ食いしばんな」と言うと同時、あたしは久米の腹に鉄拳をお見舞いしてやった。
「っつ~…!」
久米が声にならないうめき声を挙げて腰を折る。
「な…!なん…っ!」
「あんたさっきどさくさに紛れてあたしの胸触ったでしょ」
「いや…意図して触ったわけじゃなくて、触れちゃったんだよ」と久米はしれっとして言う。さっき…と言うのは堤内に押されて久米が抱き止めてくれたときだ。
「不可抗力だ」とお腹を押さえながら涙目になって訴える久米。
でも、立ち直りも早く久米は掌を見つめてにっこり。
その笑顔が余計に腹立たしい。
前は……そう中学生時代のときはちょっとのことで真っ赤になってたのに、何なの妙な余裕ての?飄々としやがって。
二年も経つとこんなもん?
久米の態度を見て何だか怒ってたことがバカらしくなった。
「ねぇ、あたしの胸って成長したと思う?」とちょっと小首を傾げると今度はあたしの方が意地悪を仕掛け、このとき初めて久米は顏を赤くして
「知らないよ。中学生のとき触ったことないし」とそっぽを向く。その横顔がほんのり赤身をさしていた。
……久米は、ふいに美術バカの顏になる。
あたしの忘れかけていた久米が、過去の久米を引っ提げて戻ってきた。そんな感じ。
それは思いも寄らないタイミングでふいに蘇る。



