その異様な光景の中、あたしと久米が手を繋いでるってことにしばらく誰も気付かない。
「あ、鬼頭さん、おはよー。見て!あれ!超キモくない!?」
とあたしの登場に気付いた岩田さんが顔を青くさせて走ってきた。
あたしは、さも今気づいたとばかり黒板の方に目をやって、声には出さないもののちょっと驚いたフリ。
「……何これ」
一つ呟いて久米を見上げると、久米も奇異なものを見るような目つきで目を細めていた。もちろん演技だけど。
そうこうしている内に予鈴が鳴り、それとほぼ同時に
ガタっ!
木製の何かが傾くような一段と大きな音が立ち、あたしと久米はその音の方に顏を向けた。
音がしたのは後ろの扉の方で、ちょうど登校してきたばかりの森本さんが顔を真っ青にして両手で口元を覆い、扉に背を預けていた。
あたしはその様子を目を細めながら眺めた。
森本さん―――……?
森本さんは今にも吐きそうな程顔色を悪くさせ、口元を覆ったまま来た道をユーターンするようにひらりと身を翻し、慌てて教室から出て行った。
久米も森本さんのちょっと異常なまでの反応を気にしていたのだろう、森本さんが消えた扉の向こう側を見ている。
黒板に貼られた異常な数のシールと、呪いのようなメッセージに、皆森本さんの態度を不思議がっている様子はない。訂正、余裕はない。
「ねぇ、誰かのイタズラかな」
案の定、森本さんの不審な動きに全く気付かなかった岩田さんに再び声を掛けられ、あたしと久米二人で顏を戻すと、岩田さんは今度はちょっと違った驚きの視線であたしたちの握られた手を見ていて
「え、……ど、どうゆうこと…?」と目をパチパチ。「鬼頭さんと久米くんて……」
岩田さんはあたしが水月と付き合ってたことを知ってる数少ない友達の一人。少し前、事情があって久米と付き合うフリをしていると言ったばかりだ。だから本気にはしてないだろうけど、手を繋いでいることにちょっと驚いたよう。
岩田さんが最後まで言い切らない内に、水月が出欠簿を抱えて入ってきた。
「静かにー、朝礼始める……」
言いかけた言葉を飲み込む。水月も黒板を目にして固まった。
「誰がこんなイタズラを!」
とちょっと肩を怒らせ、やや大げさともとれる仕草で慌ててシールを剥がしに取り掛かる。



