―――と言うわけで、あたしは久米と付き合ってることを早速パフォーマンス。
でも……
楽しそうに出来てないからか、イマイチ信憑性に欠ける気がした。
下駄箱の集まっている昇降口に向かう最中、黒い出欠簿を手に職員室にある方へ向かう
水月
の姿が目に入り、あたしたちを見ると大きな目をまばたきした後、ちょっと不機嫌そうに顎を引き、それでも何でもない素振りであたしたちとすれ違う。
すれ違う時、黒い出欠簿で頭を小さく叩かれた。
「鬼頭、ネクタイはしめなさい」
「分かりました。でも皆だってしてないよ」
と一応反抗する態度をとったものの
「校則違反だ」と“教師の顏”で真剣。
「はい」
あたしは生返事を返して、今度こそ完全にすれ違い水月の姿が職員室に向かう。
その背を名残惜しそうに…かと言ってあまり見つめているのも変だからすぐに前を向くと、手を繋いだままの久米が、ちょっと悔しそうに微苦笑を浮かべていて
「なんだ……できるじゃん、とびきりの笑顔」
と、一言。
うん、そうだね。
あたしは今とびきり嬉しい。
昨日―――会議の後、水月と話した。これがあたしたち二人だけの
暗号
『ネクタイはしめなさい』は
――好き
で
『皆だってしてないよ』は
――あたしも
『校則違反』は
この関係は世間では違反者だけど、気持ちには嘘がつけない。
愛 し て る
あたしも。



