「さっき…?どうしたんだよ、何かあったんかよ」
とあたしの代わりに明良兄が乃亜に詰め寄って、訂正…聞いて
「……いや……うん、大丈夫」と乃亜は一人で頷いたり視線を宙に彷徨わせたりで自己完結。
「この後に及んでまだ隠し事かよ」明良兄がほんの少し声を低めて再び視線を険しくさせた。
「明良兄、さっき言ったよね、あたしは。『言いたくないこと聞かれたくないことなら聞かないし問いたださない。意見や質問は受け入れるけど、発言に嘘はつかないで』って。嘘さえつかれてなかったらそれでいいよ」
「だけど雅、それならカードが出揃ったとは言えないぜ?」と明良兄が苛々した面持ちで額に手をやり、あたしは何でもない様子を装って明良兄が買ってくれたクッキーの一つに手を伸ばした。
この秋限定のマロン味のクッキー。欲しかったんだけど、バタバタしてて買い損ねちゃって、もう売ってないと思ってたのに。念願のクッキーを口に入れて、それはほろりと口の中で溶けた。
それは甘い、甘い―――秘密と言う名の『蜜』の味がほんのりした。それを飲み込み
「言ったでしょう?言いたくないことの一つや二つ、ひとにはあるんだよ」
明良兄だってそうでしょ、と暗に含ませると明良兄は小さく吐息をついた。不穏な空気が流れてあたしはわざとらしく
「このクッキー想像以上においしいね。どこのコンビニで買ったの?」と話題を変えると
「駅前の、新しくできたコンビニで。お前そうゆうの好きだったろ?」と明良兄が慌てたようにあたしの話題に食いついてきた。
明良兄の知られたくない秘密ってのは、たぶん少し前の浮気のことだ。乃亜も知ってるけど敢えて問いただそうとはしない。明良兄も今更になって『許して欲しい』なんて言わない。それもあってか明良兄は乃亜のどこか納得のいかない発言と表情に詰め寄りたいのにできない。そんなもどかしさが漂っている。
だから全然違う話題で話を逸らすのが一番。重い空気は苦手だし、そもそもそこまで深入りするのはもっと苦手。
「さて、明日はハードな一日になりそうだし?今日栄養あるもの食べて体力つけなきゃ。二人何が食べたい?」と何でもない素振りを装って立ち上がると、あたしの短いスカートの裾をきゅっと乃亜が掴み
「い……言ってなかったことがあるの」と言葉を紡ぎ出した。



